技術的文書を書くときには
技術的文書を書くときには
- ロジックのきっちり通った文書を書く
- 何度も自分で推敲する
- 分かりやすく
を心がけて書く。中公新書の”理科系のための作文技術”を一読しておくとよい。
(1)おおざっぱに、そして詳細に
ものごとを説明するときは、おおざっぱに説明してから詳細に向かう。いきなり、詳細から説明をスタートしてはいけない。カレーの作り方を説明する場合には、まず野菜と肉をいためて、煮て、ルーを入れる、と大まかに説明してから、作り方の詳細の説明に入る。読んでいるほうは議論の方向がわかり、安心して読むことができる。
(2)ロジカルに
ひとつのパラグラフにはいいたいことを一つだけに絞る。なにを言いたいパラグラフかはっきりさせる。そしてパラグラフを論理的にスムースに繋ぎ合わせる。ロジックの飛躍はないか?前に書いたことと矛盾していないか?この主張の前提条件はなにか?など常に冷めた目線で確認しつつ筆を進める。セクション名やサブセクション名は適切だろうか。サブセクション順は適切だろうか。いったん引いて全体の構成・構造を見直すことも重要だ。
(3)再現性
実験の再現性は技術的な文書の命といってもよい。読者が実験や理論値の計算を本当に再現できるか、つねに問いかけながら必要な記述が抜けていないかどうかに神経をつかう。実験でなくて理論の場合も同様。読者の頭のなかで自分の理論がたしかに展開できるか、を考えよう。
(4)推敲、そしてまた推敲
分かりやすい文書を書くためには、書いて、批判的に読み直し書き直すという推敲ループを自分で何度も実行するしかない。論理的にパラグラフ、文章はなめらかにつながっているだろうか。抜けている説明はないだろうか。わかりにくい箇所はないだろうか。文章における係り受けや「てにをは」が間違っている箇所はないだろうか。書き終わったら、コーヒーでも飲んで気分を変えてから、他人になったつもりで読み直してみよう。読み直しの際には赤ペンで気がついた箇所に赤をいれる。
(5)わかりやすく
できあがった文書は対象とする読者たちにとって本当に分かりやすいものになっているだろうか。補足したほうがよい場所はないか。具体例を示すほうがよい場合はないか(よい具体例は理解をぐっと深める)。ある程度、文書がまとまってきたら、「わかりやすさ」について確認してみよう。論理的であっても読者にとって分かりにくい文書は受け入れられにくい。本文で2,3ページかけて説明していたアイデアが1枚の図により一瞬で読者に伝わることも珍しくない。
(6)図表について
図(グラフを含む)は、図のみ単独でみても(本文をみなくても)なにを示しているかの概略がつかめるように具体的なキャプションをつける。主要なパラメータは図中、キャプションに含める。図中のフォントは本文のフォントサイズと比べて小さくなりすぎないようにする。
(7)引用
本文中では、十分すぎるぐらい参考文献を引用しよう。それには、いくつかの理由がある。
- 参考文献を引用している記述は人の仕事である。それ以外のところは、自分の仕事である。このように「どこがオリジナリティの有る部分か」ということを明確にするためにも必要である。
- 参考文献のしっかりしていない文書は信用されない。分野のバックグラウンドを知らずに書いているものとみなされ、評価が低くなる。
- 人の仕事にリスペクトを持つのは、どんな仕事でも重要。故意でないとしてもその分野で重要な論文を引用していないのは、その仕事を軽んじていると取られる可能性は多いにある。自分ひとりの力で研究をしている気になってはいけない。過去の有形無形の先人達の貢献・仕事という土台の上でわれわれの研究がなされているわけだから。
プレゼンテーションについて
プレゼンテーションでは、
- 準備をしっかりする
- 練習を何度もする
- 誠実な態度で準備・講演・質疑応答を行う
ことがなにより大事。正直なところビギナーの話にはなかなか耳を傾けてもらえない。聴いていただく、という態度がなければその時点でアウト。上のことを守り、何度も場数を踏むをことにより、プレゼン技術は必ず向上する。
(1)目標を明確に持つ
研究発表のプレゼンテーションの場合、聞いている人に内容をある程度理解してもらい、できれば「面白い」(知的興味、実用的観点などから)と思ってもらうことが目的。まずはなにをしたのか、を理解してもらわないと聞いている人にはなにも残らないし、伝わらない。
(2)発表時間はどれぐらいあるか
発表時間によって、同じテーマでも構成は大きく、変わる。10分なのか、20分なのか、1時間なのかで、話す内容、話の詳しさなどは違ってくる。発表時間が短い場合には、なにを話すべきかという吟味が非常に重要になる。絶対話すべきことから、逆算して話す内容を決めていく。
(3)誰が聞きにくるのか
学部生が聞くのか、学会発表なのか、卒業研究発表なのか、などで聴く人の知識レベルや興味は大きく異なる。この見極めを間違うと場違いな講演になってしまい、発表の効果はゼロ(もしくマイナス)になってしまう。ちゃんとリサーチしよう。また自分で見極めがつかないない場合は、適切な人にアドバイスを求めよう。
(4)準備に時間をかける
特に初心者のうちは、スライドの準備に時間をかける。いきなり、スライドを作り始めるのではなく、全体の構成をいったん紙に書いて方針をまとめよう。発表者の考えた構成が混乱していたら、間違いなく聴いている人も混乱する。構成のポイントは次のとおり。
- 研究のモチベーションをまず冒頭でしっかり説明する。モチベーションがよくわからないと一気に聴く気が減少する。
- 研究の背景、関連の研究成果(他の研究者のもの)などバックグラウンドについて説明する。研究の位置づけを理解してもらうことが重要。ここをしっかりやらないと関連の仕事をぜんぜん知らずにやっていると思われ、説得力減少。
- 自分の研究のアイデアを明快に伝える。例を使ってもよい。ここの部分が発表のメインとなる。十分に聴いている人にアイデアが伝わるように工夫する。図を使うのも効果的。自分が面白く思っていることを伝えよう。本人が面白く思っていないことを他人が面白く思うはずがない。
- 結果の提示は、聴いている人を混乱させないように細心の注意を払う。
(5)スライド作成の注意点
- 箇条書きをうまく使う。長い文章はなるべくさけて、箇条書きで要点をまとめる。
- 読みやすさに気を配る。字は小さすぎないか、一枚に文章を詰め込みすぎていないか、スライド内の文章は適切か。
- 美しさに気を配る。文書の配置、図、ヘッダ・フッタ、フォント、数式などがトータルとして美しいスライドとなっているだろうか。スライドが雑然としてないだろうか。強調をしすぎて、色だらけ、太字だらけの品のないものになってないだろうか。
- アニメーションなどの視覚効果には極力頼らない。内容で勝負。(ただし、アイデアを示すのに効果的ならば使うのはOK)
研究を前に進めるには
研究はそうは思ったとおりには進まない。全然結果が出ずに月日が流れていく。。。というのも普通である。簡単に成果が出る研究は、いってみればその程度のレベルの研究ということである。それでもコツコツ進めると「ごくたまに何かを」発見できる。小さい発見であっても、他の人の見えていない風景がちょっとでも見える、のは楽しいことだ。研究の進め方について、著者が考える、「望ましい習慣」について以下に述べる。
(1)ノートをつける
思いついたこと、計算の結果、実験の結果、論文・本を読んでわかったことは一冊のノートに書いていく。間違った計算などもあとで振り返りたくなるときもあるので、不要紙の裏に計算するのではなく、ノートに計算過程を残しておく。そしてたまにノートを見返す。失敗した例も書いておく。何が失敗の原因であったかということを理解することで新しい成果に繋がることもある。
(2)小さい具体例を作る
いきなり大型のモデルでやってもうまくいかないことが多い。非常に単純化した扱いやすい具体例(トイモデル)を作り、それに対して計算やプログラムを書いてみる。そうすると取り組んでいる問題に対して理解が深まり、その世界における直感が育ってくる。いわば、「トイモデルで遊んでみる」ことが様々な面で役に立つ。良質な直感的理解がないとより深いところまでは到達できない。
(3)過去の仕事のサーベイをする
過去の仕事の調査は最初にしてしまうともうこれ以上、この研究分野ですることはないのではないかと意気消沈してしまうこともあるので、あまり勧められない。しかし、ある程度、研究成果がでつつある時点では、過去の関連の研究の調査(サーベイ)が必要不可欠だ。サーベイをしっかりしないと自分の研究にオリジナリティがあるかどうかがよく分からないことになる。また文献調査をすることで新しい研究のアイデアが得られることも多い。
(4)地に足のついた理解をしていく
急いで研究を進めることに気がいってしまって、理解がおろそかになっている点はないだろうか。しっかり物事を理解するには、根気と時間がかかることも多い。一歩づつ分かる領域を増やしていこう。地に足のついた理解をしておくと応用が利く。
学会に行こう
新規性があり、有効性もある結果がでたらぜひ外部で発表しよう。学会発表で人に聞いて貰うとモチベーションもあがるし、人から自分の気がつかなかったコメントを貰えることもある。何より自分の大学の中だけでは井の中の蛙。どんどん外にでよう。
(1)国内の研究集会(本グループが関連するもの)
- 電子情報通信学会 情報理論研究会:情報理論、符号理論、通信理論の研究者が集まる。2ヶ月に一度程度。予稿6ページ、発表20分から25分。発表レベルはけっこう高い。毎年7月に開催される「フレッシュマンセッション」では、修士1年生の発表が特集される。研究会のプログラム・申し込みはHPより。
- 電子情報通信学会 総合大会(3月)、ソサエティ大会(9月)非常に大規模な研究集会。数千人規模。予稿は1ページ。発表時間は10分から15分程度。
- 誤り訂正符号のワークショップ:誤り訂正符号・符号理論の国内研究者が集まる。開催時期は夏。関連する研究をしている他の大学の学生や先生と知り合うよいチャンスである。
- 情報理論とその応用シンポジウム(SITA):毎年1回、情報理論研究者が集うシンポジウム。参加者は300人程度。温泉地で開催されることが多い。なるべくこのシンポジウムで発表できるようにしたい。
(2)海外の研究集会
英語で原稿を準備、発表も英語であり、しかも査読(論文審査)も厳しい場合が多い。しかし、発表により得られることは非常に多い。論文通れば、世界中どこであっても、旅費宿泊費は全額研究費で支出する(宿泊費については大学の規定の額)。
- ISIT(International Symposium on Information Thory)IEEE主催の国際会議。情報理論のトップの国際会議。査読が厳しく、国内から学生で通っている人は極めてまれ。逆にこれに通れば学生としてはトップクラス
- ISITA。SITA主催の国際会議。2年に一回開催される。こちらはかなり学生でも通りやすい。
- Turbo coding symposium ...2年に1回開催。ターボ符号やLDPC符号の研究者が集まる。オーラルセッションとポスターセッションがある
- Information Theory Workshop...IEEE Information Theory Society 主催の国際ワークショップ。これも難易度は高い。
(3)学生の学会出張旅費に関する方針
移動費(JR等、航空機)は全額研究費より支出。宿泊費については、大学の規定の額を研究費より支出。飲食費等は各自の支出となる。また海外出張の場合は、各人の負担で海外旅行保険加入のこと。